
前回は、ロシアの戦略爆撃機を何機も壊したんだよね。

補充できない大型機を失わせた。特殊作戦としては大成功だぜ。

それなら、ロシア軍の攻勢も少しは弱まったの?
蜘蛛の巣作戦が実行された2025年6月1日にも、地上ではロシア軍の攻撃が続いていました。戦略爆撃機への損害は、東部・北東部で戦う地上部隊を直ちに止めるものではなかったのです。



だけど画像を見比べても、前線が何百キロも動いたわけじゃないないみたいだな。

そんなに遅いって……本当に「攻勢」なの?
大都市を次々に奪う電撃戦ではありません。それでもロシア軍は、スームィからドネツク州西部まで複数の正面で攻撃を増やし、ウクライナ軍に歩兵、弾薬、予備隊を使わせ続けました。
「夏季攻勢」は、一つの作戦ではなかった
2025年のロシア夏季攻勢には、明確な開始宣言や単一の作戦名がありません。春から攻撃回数が増え、5月から7月に複数正面の前進が加速した期間を、報道や分析機関が便宜的に夏季攻勢と呼びました。
本記事では4月の準備段階から、5~7月の主攻勢、8月のドブロピッリャ方面への浸透、9月のウクライナ軍による反撃までを一つの段階として扱います。

総司令部が一枚の計画で始めた攻勢とは限らないんだな。
そうです。複数の軍集団が、それぞれ異なる地理的目標を追いました。共通していたのは、一点突破よりも広い戦線で防御側へ選択を迫ることでした。
| 正面 | 主な狙い | ウクライナ側への圧力 |
|---|---|---|
| スームィ | 国境沿いの「緩衝地帯」形成 | 北部へ予備隊を拘束 |
| リマン | ドネツ川周辺と北部ドンバスへ接近 | スロビャンスク方面を圧迫 |
| コスチャンティニウカ | ドネツク州北部の都市防衛線へ接近 | 道路と要塞都市群を脅かす |
| ポクロウシク | 交通・補給拠点を側面から包囲 | 予備隊とドローン部隊を吸収 |
| ノヴォパウリウカ | ドネツク州西端から前線を拡張 | ドニプロペトロウシク州境へ接近 |
全正面で都市を奪えなくても、ウクライナ軍に「どこへ最後の予備隊を送るか」を迷わせれば意味があります。攻撃軸の数そのものが、防御側にとって負担でした。
ポクロウシクへ集まった「11万1,000人」の意味
ウクライナ軍総司令官オレクサンドル・シルスキーは、ロシア軍が2025年夏にポクロウシク方面へ約11万1,000人を集めたと説明しました。同方面は前線全体でも最も激しい戦場の一つでした。

11万人もいたら、一気に街へ入れそうだけど。
この数字は、11万人が同時に突撃したという意味ではありません。前線歩兵だけでなく、砲兵、ドローン部隊、工兵、補給、整備、指揮通信、交代要員、後方予備を含む方面全体の兵力です。

それでも戦車と歩兵をまとめれば、突破力は上がるだろ?
火力は上がりますが、現代の前線では大部隊ほど偵察ドローンに発見されやすくなります。車列は地雷、砲兵、FPVの標的となり、展開前に損害を受ける危険がありました。
ロシア軍は装甲車を完全に捨てたのではありません。状況に応じて、小人数の歩兵、バイク、全地形対応車を組み合わせ、発見から攻撃までの短い時間を速度と分散で抜けようとしました。


バイクで戦場へ行くなんて、装甲がなくて危険すぎない?
非常に危険で、損耗も激しい戦術です。しかし道路以外も通りやすく、標的が分散し、短時間で接触線を越えられる利点があります。ロシア軍にとって、保護と生存性を犠牲にしてでも速度を得る適応でした。
十組のうち一組でも残れば、防御側は動かされる

数人ずつなら、見つけて排除すれば終わりじゃないか?
小部隊の多くは目標へ届く前に失われます。それでも一部が樹林帯、廃屋、地下室へ入り込めば、後続部隊の足場や観測点になります。防御側は放置できず、捜索と掃討へ兵員を割かなければなりません。
十組のうち九組を阻止しても、一組が後方へ入れば、ウクライナ側のドローン操縦所、補給車両、迫撃砲陣地を脅かします。攻撃側の損失が多いことと、防御側が安全であることは同じではありません。

守る側は、一人でも抜けたら探しに行かないといけないんだ。
しかもウクライナ軍には、長い前線を埋める歩兵が不足していました。監視ドローンで広い範囲を見られても、浸透した兵士を最後に排除し、陣地を保持するのは地上の兵士です。
ドローンが接触線の後ろまで戦場にした

2025年の前線では、塹壕同士の間だけが危険地帯ではありません。偵察ドローンとFPVにより、交代する歩兵、弾薬車両、負傷者の後送、工兵、砲兵、ドローン操縦班まで、接触線の後方で攻撃されました。

村を取らなくても、村へ入る道を狙えば孤立させられるな。
その通りです。道路がドローンの常時監視下へ入れば、昼間の大型車両は動きにくくなります。補給を夜間、小型車両、徒歩、無人地上車両へ切り替えても、一度に運べる量は減ります。

これはロシア側だけの能力ではありません。ウクライナ軍も道路上で待機し、ロシア軍車両が近づくとドローンを使い攻撃しました。両軍が互いの補給路を狙い、前線後方の「安全な道路」が消えていったのです。
接触線
歩兵、地雷、砲撃、FPVが集中する。陣地の保持には人員が必要。
数キロ後方
補給、交代、後送がドローンに狙われる。前進1キロが次の道路を危険圏へ入れる。
さらに後方
滑空爆弾、長距離ドローン、ミサイルが指揮所や集積地を攻撃する。

危険になる範囲が大きく広がったのね。
6月556平方キロ、7月713平方キロ――同じ数字ではない
Reutersは戦況図の分析から、ロシア軍が2025年6月に約556平方キロを占領したと報じました。AFPによるISWデータの分析では、7月にロシア軍が進入・取得した地域は713平方キロ、ウクライナ軍が取り戻した地域は79平方キロとされました。

なら、6月から7月にかなり加速したと見ていいか?
傾向として前進圧力が強まったことは確認できます。ただし、この二つをそのまま一本の折れ線へつなぐのは慎重であるべきです。「占領」「前進」「浸透」「支配確認」の基準と、後日修正の扱いが集計元によって異なるからです。
| 時期・数字 | 公表・集計主体 | 記事での扱い |
|---|---|---|
| 5月:約449平方キロ | AFPによるISWデータ分析 | 支配・前進地域の月次集計 |
| 6月:約556平方キロ | Reutersの戦況図分析 | 「占領」として報道。集計基準に注意 |
| 7月:713平方キロ | AFPによるISWデータ分析 | ロシア側取得面積の総量。ウクライナ側奪還79平方キロは別計上 |
※情報源の更新により過去の面積が修正されることがあります。本記事は、異なる定義の数字を合算せず、夏に前進速度が高まったことを示す参考値として使用しています。

ウクライナ全体と比べたら、数百平方キロは小さくない?
国土全体に占める割合は小さくても、どこを取ったかで価値は変わります。補給道路、鉄道、高地、樹林帯、都市の入口を失えば、次の陣地を守る時間と輸送能力まで削られます。
スームィ――止められた攻勢も、無意味ではなかった

北部では、ロシア軍がクルスク州からスームィ州へ入り、州都スームィから約20キロの地点まで接近したと報じられました。ロシア政府は国境沿いに「緩衝地帯」を作ると説明しました。

スームィ市まで攻め込むつもりだったの?
公開情報から、ロシア軍が当時の兵力で州都占領を現実的な直近目標にしていたとは断定できません。東部国境からウクライナ軍を引き抜かせる目的が考えられます。

6月末、シルスキー総司令官はロシア軍の前進を停止させ、戦線を安定化したと発表しました。その後、ウクライナ軍は一部集落で反撃を行いましたが……。前進を止めるために投入した部隊と火力は、別の正面では使えません。

攻勢を止めても、予備隊を北へ動かした時点で負担は残るのか。
ドブロピッリャ――細長い突出は「突破」だったのか
8月、ロシア軍の小部隊がポクロウシク北東のドブロピッリャ方面へ急速に浸透しました。戦況図には細長い突出部が現れ、ウクライナ軍の戦線が突破されたように見えました。

地図で十数キロ伸びたなら、今度こそ作戦的突破だろ?
この時点では早計でした。ISWは、限定的な破壊・偵察部隊による浸透が含まれ、ロシア軍が突出部全体を確実に支配しているとは限らないと評価しました。
作戦的突破には、先頭部隊が進むだけでなく、側面を守り、道路を確保し、弾薬と増援を送り続ける必要があります。細い突出部は前進の機会である一方、両側から切断されやすい弱点でもあります。

地図の先端まで、全部を占領していたわけじゃないんだ。
ウクライナ軍は予備隊を投入し、9月には突出部周辺で領域を奪い返したと発表しました。ロシア軍は突出部を大突破へと発展させることに失敗したということです。
しかし、危機へ対応するためにウクライナ精鋭部隊を移動させた事実は残ります。ウクライナ側の予備と作戦自由度を消耗させた可能性はあります。
ロシア軍の損害が多くても、脅威が消えない理由

そんなに損耗が激しいなら、ロシア軍の方が先に限界になるんじゃない?
確かにロシア側も深刻な負担です。ただし、消耗戦で重要なのは、損失数だけでなく、両軍がどの程度の速度でそれを補充できるかです。
ロシアは高額な契約金で志願兵を集め、国内軍需生産と国外からの弾薬支援を利用し、攻撃を続けました。一方、人口の小さいウクライナでは、経験ある歩兵や下級指揮官の損失がより重く響きます。

損失比で勝っていても、必要な陣地を埋められなければ下がるしかない。
その通りです。ウクライナ軍は長大な前線、歩兵不足、米国支援の不透明化を同時に抱えていました。防御側が一つの村を守る人数を用意できなければ、攻撃側は前へ出られます。
夏季攻勢は成功だったのか
ロシア側が得たもの
- 5~7月の占領・進入面積を拡大
- 複数正面でウクライナ予備隊を拘束
- ポクロウシク周辺の補給路へ接近
ウクライナ側が阻止したもの
- スームィ方面の継続前進を停止
- ドブロピッリャ突出部へ反撃
- 夏の間のポクロウシク占領を阻止
双方に残った代償
- ロシア軍の大きな人的・装備損失
- ウクライナ軍の歩兵・予備不足
- 前線都市と住民生活の破壊
ロシア軍は、夏の間にポクロウシクやコスチャンティニウカを占領できず、ウクライナ戦線を作戦的に崩壊させることもできませんでした。その意味で決定的な成功ではありません。
一方で、小部隊の浸透、ドローンによる道路遮断、複数正面の攻撃を反復し、ウクライナ軍の少ない予備隊へ負担を蓄積しました。遅い前進はロシア軍の限界を示すと同時に、ウクライナ側を休ませず苦しませる戦い方でもあったのです。

大突破には失敗したが、攻勢全体が無意味だったわけでもない、と。
まとめ――地図の速度と、消耗の速度の違い
2025年夏のロシア軍は、戦車軍団による一度の突破ではなく、大きな損失を覚悟の上で、数人規模の浸透、バイク、FPV、滑空爆弾を組み合わせた攻撃を行いました。多くの攻撃部隊が失われたとしても、一部が防御線へ入り込めば、ウクライナ軍に掃討と増援、そして犠牲を強いることができるからです。
地図上の前進が僅かな距離でも、次の道路や補給拠点がドローン射程へ入れば、その影響は数倍に膨れ上がります。兵士の交代、負傷者の後送、弾薬輸送が難しくなり、守備隊は陣地を維持できなくなります。
したがって、ロシア軍の前進が遅いことは「脅威ではない」証拠ではありません。同時に、損失を重ねても大都市を短期間で奪えなかったことは、ロシア軍にも作戦的限界があったことを示している、とも言えます。

あれ?でも、この間も停戦の話し合いは続いてたよね?どうして戦闘は続いてるの?

交渉中に攻めれば、条件を有利にできると考えたのか?
次回は、その問題を扱います。米国の仲介の上で、ジェッダ、イスタンブールで協議が行われても、なぜ戦闘は止まらなかったのでしょうか。停戦条件と戦場での計算を結びつけて解説します。
時系列表
| 時期 | 主な動き | 評価 |
|---|---|---|
| 2025年4月 | バイク部隊訓練、複数正面で攻勢準備 | 大部隊から分散・高速移動への適応 |
| 5月 | ドネツク州とスームィ州で攻撃拡大 | 夏季攻勢の主段階へ移行 |
| 6月 | スームィへ接近、ポクロウシク周辺で前進 | 月間占領面積が拡大 |
| 6月末~7月 | スームィ戦線安定化、東部では攻撃継続 | 正面ごとに成果が分かれる |
| 8月 | ドブロピッリャ方面へ細長く浸透 | 戦線突破の危機と戦況図の不確実性 |
| 9月 | ウクライナ軍が突出部周辺で反撃 | ロシア軍は作戦的突破を確立できず |
シリーズ記事
- 第20回:蜘蛛の巣作戦――117機のFPVが戦略爆撃機を襲った日
- 第21回:2025年ロシア夏季攻勢――なぜ遅い前進でも脅威なのか
- 第22回:停戦交渉――なぜ話し合っても戦闘は止まらなかったのか
使用画像・図版クレジット
- 2025年5月20日・8月19日戦況図:Institute for the Study of War
- ロシア軍バイク部隊:Tatyana Makeyeva / AFP via Getty Images(CNN.co.jp掲載)
- HX-2ドローン:Militarnyi掲載画像
- スームィ州攻勢:Ukrinform掲載画像
- スームィ州の破壊された検問所:Roman Pilipey / AFP / Getty Images(CNN.co.jp掲載)
- 道路遮断ドローン:Forbes JAPAN掲載画像
- 記事内図解・比較表:Life-Hack Daily作成。公開資料を基にした独自整理
参考資料・外部リンク
- ISW, Russian Offensive Campaign Assessment, May 20, 2025
- ISW, Russian Offensive Campaign Assessment, August 12, 2025
- ISW, Russian Offensive Campaign Assessment, August 19, 2025
- Reuters, Ukraine struggles to contain Russian summer advances as US aid stalls(2025年7月2日)
- Reuters, Russia at the gates: How Ukraine defended a strategic city for months(2025年7月28日)
- Reuters, Ukraine stopped Russian advances in northern Sumy region(2025年6月26日)
- CNN.co.jp「ロシア軍、ドローン回避に『バイク部隊』を増強」
- Militarnyi「第59旅団はHX-2ドローンの使用について語った」
- Ukrinform「ロシア軍の対スーミ州攻勢」
- Forbes JAPAN「補給線を狙うウクライナの『道路遮断ドローン』」
※本記事は公開資料を基に、戦争・戦史上の出来事を分かりやすく整理したものです。交戦当事者の発表、外部推定、証言、記事独自の分析を区別し、確認できない事項はその旨を記載しています。戦況・損害・支配地域等の情報は、記事記載の基準日時点のものです。
※本記事は「東方Project」の二次創作です。キャラクター原作:上海アリス幻樂団/立ち絵素材:うさ義式(うさ義様)/本記事は各国政府・軍・関連組織および東方Project公式とは関係ありません。


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