AIモデルの変遷を追うと、進化したのは「答えの賢さ」だけではないことが分かります。文章を作る研究技術が、誰でも話しかけられるサービスになり、画像を読み、仕事を手伝う道具へ広がってきました。前編は2017〜2024年、後編は2024年後半〜2026年9月を扱います。
① ChatGPTが普及の転機になった理由
② GPT・Claude・Gemini・Llamaの違い
③ 性能グラフから分かること、分からないこと
情報基準日:2026年9月30日(日本時間)。日付は原則として開発元の発表日です。全モデルの網羅ではなく、現在の使い方につながる転換点を選びました。実機の比較レビューではなく、一次資料と公開評価を再構成した解説です。
まず1分で見る、AIモデルの変遷
「ChatGPT」と「GPT」は、どう違う?
初心者が最初につまずきやすいのが、サービス名とモデル名の混同です。ChatGPTは利用者が会話するサービス、GPTはその中で使われるモデルの系列です。料理店と料理人にたとえると、同じ店でも担当が変わり、道具や注文方法も変わります。
| 開発企業 | モデルの主な系列 | 理解する入口 |
|---|---|---|
| OpenAI | GPT、oシリーズ | ChatGPTなどで利用。会話のほか、推論や作業へ展開。 |
| Anthropic | Claude | 同じ系列の中でも速度・価格・複雑な作業への適性を分ける。 |
| Google / Google DeepMind | Gemini | モデル名とアプリ名の両方に使われる。Google製品との接点も広い。 |
| Meta | Llama | モデルの重みを配布し、開発者が自分の環境で使う選択肢を広げた。 |
モデルは学習した情報をもとに出力を作る中核部分です。一方、検索・電卓・ファイル操作は周囲に接続する機能です。同じモデルでも、検索の有無や渡した資料によって結果は変わります。「ネットにつながるAIだから最新情報を必ず知っている」とは限りません。
2017〜2020年|会話ブームの前にあった技術の転換
2017年6月の論文「Attention Is All You Need」は、文章中の情報どうしの関係に注目するTransformerを提示しました。AIそのものがこの年に生まれたわけではありません。ここでは、近年の大規模言語モデルにつながる出発点として取り上げます。[原論文]
2020年5月、OpenAIはGPT-3の研究を公開しました。注目点は、課題ごとに専用モデルを一から作らなくても、少数の例を文章で示すことでさまざまな課題を扱えること。文章の続きを書く仕組みが、翻訳・分類・文章作成などへの入口になりました。[OpenAIの研究発表]
ただし、「自然な文章が出る」と「内容が正しい」は別です。例えば存在しない出来事でも、もっともらしい文にしてしまうことがある。用途を広げるには、能力だけでなく、人の指示に沿って答える仕組みと使いやすい窓口が必要でした。
2022年11月|ChatGPTが「試せるAI」を大衆化した
2022年11月30日に公開されたChatGPTは、追加質問に答えたり、直前のやり取りを踏まえたりする会話形式を前面に出しました。利用者は専門的な設定から始めず、メールの下書きや説明、コードの相談をその場で試せます。[公開時の説明]
反応の大きさを示すのが利用者数です。Reutersが2023年2月に報じたUBSの推計では、ChatGPTは同年1月に月間アクティブ利用者1億人へ到達したとされます。これは外部推計であり、OpenAIが公表した確定値でも、有料契約者の人数でもありません。[Reuters配信記事]
この時期の強みは、白紙から考える負担を減らせることでした。「お礼のメールを考えて」「難しい言葉を説明して」と頼めば、修正の出発点が得られる。反面、出力をそのまま事実確認済みの文章として使うのは危険です。OpenAIも公開時から、もっともらしい誤答や質問の言い回しへの敏感さを挙げていました。
普及の理由は、研究者だけの道具が、一般の人の「まず一回やってみる」に変わったこと。一度の回答で完成させるより、「短くして」「この条件も入れて」と往復する使い方が自然になりました。
2023年|GPT-4の性能向上と、競合の別ルート
2023年3月14日、OpenAIはGPT-4を発表しました。複雑な指示や幅広い課題への対応が進み、同社資料のMMLUではGPT-3.5の70.0%に対してGPT-4は86.4%。ただし、この数字は知識を問う選択式試験の結果です。記事の正確さや仕事の成功率が、そのまま86.4%という意味ではありません。[GPT-4研究発表]
同じ年に他社も選び方を変えていきます。AnthropicのClaude 2.1は11月21日に長い資料を扱う200Kトークンの入力枠を打ち出しました。トークンは文章を処理するときの単位で、日本語の文字数と同じではありません。長文を入力できることと、すべての細部を正しく拾えることも区別する必要があります。[Claude 2.1]
Metaは7月18日にLlama 2を公開。利用者がクラウド上のサービスへ質問するだけでなく、開発者がモデルを入手して自分の環境で調整・運用する方向を広げました。強みは運用の自由度、負担は計算資源や保守、利用条件の確認です。「重みが公開されている」だけで運用が無料になるわけではありません。[Metaの発表]
Googleは12月6日にGemini 1.0を発表しました。文章・画像・音声など複数の情報を扱う「マルチモーダル」が柱です。この時点でBardへ入ったProと、後から利用可能になった上位のUltraは別物。Ultra 1.0を搭載したGemini Advancedの提供開始は2024年2月8日でした。発表時の最高点を、その日に全利用者が触れたモデルの点数と思わないことが大切です。[Gemini発表]/[Ultra提供開始]
グラフで比較|2023〜2024年、知識テストはどう変わった?
MMLUは57分野の選択式問題で知識を測る試験です。下図は開発元の宣伝用スコアを継ぎ足さず、Stanford CRFMが2024年5月に公表したHELMによる評価から主要6モデルを選び、モデルのリリース順に並べました。横軸は正答率、色は開発企業。評価日はリリース日とは異なります。

| 公開日/企業・モデル | HELM正答率 |
|---|---|
| 2023/6/13 OpenAI:GPT-4(0613) | 82.4% |
| 2023/7/18 Meta:Llama 2 70B | 69.5% |
| 2023/11/21 Anthropic:Claude 2.1 | 73.5% |
| 2023/12/6 Google:Gemini 1.0 Pro | 70.0% |
| 2024/3/4 Anthropic:Claude 3 Opus | 84.6% |
| 2024/4/18 Meta:Llama 3 70B | 79.3% |
ここで読み取れるのは、ClaudeやLlamaの世代更新で知識問題の成績が伸びたことです。すべての系列で最大モデル同士をそろえた順位表ではありません。70Bは約700億パラメータの規模を表し、パラメータ数だけで性能が決まるわけでもありません。
なお、2023年のGPT-4発表値86.4%と、この図の82.4%は評価方法・対象の違いを含みます。性能が後から低下した証拠として差し引くことはできません。Stanfordも、同名試験でも条件が違うと比較が難しい点を指摘しています。
2024年|「見る・話す・一緒に作る」へ広がる
3月4日登場のClaude 3は、Opus・Sonnet・Haikuという性能と速度、費用の異なる構成を採用しました。画像や図表を入力して相談する用途も明確になりました。大量の短い問い合わせと、複雑な資料の検討に、同じ重いモデルを使う必要はないという考え方です。[Claude 3]
5月13日に発表されたGPT-4oは、文章だけでなく音声や視覚のやり取りを扱う方向を強く打ち出しました。ただし、発表された能力と、その日に各利用者へ提供された機能は同一ではありません。音声などは段階的に展開されました。文章を打つのが難しい場面でも相談できることは、点数の上昇とは別の進歩です。[GPT-4o公開時の説明]
6月のClaude 3.5 Sonnetでは、生成したコードや文書などを会話の横で扱うArtifactsも示されました。返事を読むだけでなく、成果物を見ながら修正する方向です。強みは制作の往復を短くすること、弱みは見た目が整った成果物でも中身の検証が必要なこと。動く画面ができても、処理やデータの保存まで正しいとは限りません。[Claude 3.5 Sonnet]
前編の要点|AIは「正答率」以外でも進化した
前編の流れは、文章を扱う技術が、会話しやすいサービスになり、長文・画像・音声・成果物へ広がった歴史です。市場の反応を見るときも、利用者が増えたこと、企業が導入したこと、投資家が期待したことを同じ数字で語らない方が実態をつかめます。
初心者が試すなら、まず機密情報を含まない短い文章で、下書き・要約・説明の比較から始めると違いが見えます。自分が正誤を判断できる題材で、どれだけ直せば使えるかを確かめる。それが性能表を読むときの基準にもなります。
後編では、即答するAIから、時間をかけて考え、ツールを使って作業するAIへの転換を追います。DeepSeekが市場を揺らした理由と、2026年9月の最新モデルも取り上げます。
後編へ:推論・DeepSeek・作業するAIの時代日付照合:GPT-4 0613/Llama 2/Llama 3。画像生成AIは不使用。図表は公開データから編集・作図しています。


コメント