
推しの配信は無料なのに、財布だけ軽いんだけど。

無料の入口から、ずいぶん奥まで歩いたんだな。

メンバーシップ、ライブ、ぬいぐるみ……どれが本業なのよ。

YouTubeの広告と投げ銭が中心じゃないのか?
前編では、VR卓球を開発していたカバー株式会社が、VTuberグループ「ホロライブ」を育て、配信者の事務所からコンテンツ企業へ変わるまでを見ました。
しかし、人気があることと、会社が利益を出せることは同じではありません。後編では、ホロライブの人気が配信、ライブ、商品、ライセンスへ流れ、最終的にカバーの利益と一株価値へ届くのかを、2026年8月31日時点の資料から確かめます。

私の出費が、会社では何に変わるのかってことね。
カバーには四つの売上がある
カバーは売上を「配信/コンテンツ」「ライブ/イベント」「マーチャンダイジング」「ライセンス/タイアップ」の四分野に分けています。四つは別々の店ではなく、配信で生まれた関心を何度も別の商品へ変える仕組みです。

四つとも本業って、少しずるくない?
配信は毎日の接点、ライブは濃い体験、グッズは手元に残る商品、ライセンスは他社の売り場を借りる拡張です。一人のファンが複数分野で支出するだけでなく、各分野が次のファン獲得にも働きます。

広告収入だけを見ると、入口しか見ていないわけだな。
配信・コンテンツ――無料配信は何を生むのか
配信/コンテンツ分野には、YouTube広告、Super Chat、チャンネルメンバーシップ、音楽配信などが含まれます。継続収入になりやすい一方、プラットフォーム手数料やタレントへの分配があり、視聴回数がそのまま会社の利益になるわけではありません。
それでも無料配信が重要なのは、ファンとの接触頻度を保つからです。毎日の雑談やゲーム配信で人格と物語が積み重なり、誕生日商品やライブを買う理由が生まれます。テレビCMより長く、しかも双方向に関係を作れる点が、VTuber事業の土台です。

毎日会うから、記念日の意味も重くなるのか。

無料配信は試食じゃなくて、毎日通う店なのね。
その例えは半分正解です。ただし、配信そのものでも収益を生みます。カバーにとって理想なのは、配信だけで回収することではなく、低い追加費用で世界中へ配信し、そこで育った人気を複数事業へ広げることです。
ライブ・イベント――画面の中の人気を会場へ移す
ライブ/イベントには、会場チケット、配信チケット、映像商品、協賛、物販などがあります。年次の「hololive SUPER EXPO」「hololive fes.」に加え、所属タレントの単独公演や海外公演も増えました。

ライブは客単価を上げやすく、ファン同士が同じ場所へ集まることでブランドへの帰属意識も強めます。一方で、会場、舞台、音響、演者、スタッフ、3D収録には大きな費用がかかります。満席でも制作規模次第では、ライブ単体の利益率が高いとは限りません。

チケット代だけ数えても駄目なのね。

利益だけでなく、次の一年も応援する理由を作る投資か。

満員なら必ず大儲け、ではないのね。
最大の売上源はグッズ――ホロカは第二の柱になるか
2027年3月期第1四半期で最大だったのはマーチャンダイジングです。ぬいぐるみ、アクリルスタンド、衣料品、記念商品などを自社で企画し、公式ショップや店舗で売ります。人気を商品へ変えやすい反面、製造原価、物流、在庫、欠品をカバー側が負担します。
この分野で注目されるのが「hololive OFFICIAL CARD GAME」、通称ホロカです。カードは集める人、遊ぶ人、大会へ参加する人が重なります。新弾を定期投入できれば、記念商品より反復購入を作りやすく、店舗大会はファン同士の接点にもなります。


新弾が出るたびに、また財布が軽くなる仕組み?

霊夢の財布をKPIにするな。競技人口と再購入率だぜ。
初期の売れ行きだけでは定着を判断できません。大会参加者、小売店の取扱い、英語版の販売、新弾ごとの販売量、在庫回転を追う必要があります。人気カードを増刷しすぎれば希少性が落ち、少なすぎれば転売市場へ需要が逃げます。
ライセンス・タイアップ――在庫を持たずにIPを広げる
ライセンス/タイアップは、ゲーム、飲食、小売、交通、スポーツなどの企業がホロライブのキャラクターやタレントを使い、カバーがライセンス料や企画収入を得る分野です。
ライセンスは在庫負担が小さく、海外の販売網を持つ企業と組めば、自社だけでは届かない地域へ進めます。利益率の改善に向く一方、コラボを増やしすぎれば希少性を失い、不適切な商品や広告はブランド全体を傷つけます。

軽い収益ほど、ブランド管理は重いんだな。
四つの売上は、一人のファンの中で循環する
- 無料配信や切り抜きでタレントを知る
- メンバーシップへ加入する
- 記念グッズやホロカを買う
- ライブへ参加する
- コラボ商品から別のタレントも知る
- グループ全体を長く追う
ただし、一人から際限なく取るほど良いわけではありません。商品過多や高価格化はファンを疲れさせます。成長には、支出額だけでなく、新規ファン、継続期間、海外比率、タレント間の回遊、ライセンスのような低在庫収益が必要です。

私を絞るより、長く居てもらう方が大事なのね。
そうです。言い換えると――少し経営用語が強すぎました。カバーが守るべきなのは、今月の購入額だけでなく、来年も配信を見たいと思える関係です。
人気は続いているのに、なぜ減収減益なのか
2027年3月期第1四半期の売上高は88億2,500万円で前年同期比8.3%減、営業利益は6億5,100万円で33.0%減でした。営業利益率は前年同期の約10.1%から約7.4%へ低下しています。

人気企業なのに、利益が三分の一も減ったの?
「33%減」は利益の減少率で、利益が三分の一になったわけではありません。前年同期9億7,200万円から6億5,100万円へ減った、という意味です。
最大の減収要因はグッズでした。会社は、ホロカ新商品の販売時期と構成の差、卒業タレント商品の剥落、ECの製造・販売体制移行中の欠品と品ぞろえ不足を挙げています。

売れなかったのか、売る物が足りなかったのかで意味が違うな。
そこが重要です。欠品は需要があっても売上にできなかった可能性を示します。一方、配信指標の軟化や卒業商品の剥落は、単なる物流問題ではありません。さらに組織整備で固定費が先に増え、売上減以上に利益が減りました。
会社は通期予想を据え置き、売上高513億5,000万円、営業利益70億円を見込んでいます。ただし第1四半期の進捗率は売上約17%、営業利益約9%です。下期偏重の計画を実現できるかは、欠品解消、ホロカ新商品、ライブ、ライセンスの積み上がりで確認すべきです。

据え置きなら安心、とまでは言えないか。

会社の自信より、次の実績で確かめたいぜ。
タレントに支えられる会社の弱点
カバーのIPは、会社が一方的に作るキャラクターではありません。デザイン、設定、技術、運営に加え、演者本人の声、判断、配信頻度、ファンとの関係が価値を作ります。休止や卒業があれば、過去の映像や商品は残っても、新しい活動収入は止まります。
大型タレントほど活動の選択肢も増えます。2026年、星街すいせいは個人事務所「Studio STELLAR」を設立し、ソロの音楽・配信・新規グッズ・ファンクラブ運営を移しました。一方、ホロライブ所属としてのコラボやグループ活動は継続し、カバーとの協業も残ります。


残っているなら、何も変わらないんじゃない?

ソロ収益の一部は外へ移る。だが完全卒業より関係は残るな。
これは大型タレントの自由と会社の収益を両立させる試みです。成功すれば、成長したタレントを囲い込まずにグループ価値を保てます。逆に協業範囲が狭まり続ければ、カバーに残る収益は減ります。今後は、共同ライブ、商品、権利分配の実績が判断材料です。
事業を広げるほど、失敗の費用も大きくなる
ホロスターズ――成長しない事業へどこまで投資するか
男性VTuberグループ「ホロスターズ」は2026年、会社主導のグループ全体活動を一区切りとし、個人活動を主軸にする体制へ移りました。自社スタジオ配信、記念グッズ、オリジナル曲など、一部支援も制限・終了されました。
ファンにとっては活動機会の縮小です。一方、株主視点では、女性部門との規模差が大きい事業へ固定費を投じ続けるべきかという資本配分問題です。文化を守ることと採算管理は、どちらか一方だけを唱えても解けません。

数字だけでは、ファンの時間まで測れないわ。
ホロアース――技術的に作れたことと、商業的成功は別
カバーはメタバース「ホロアース」を長期開発しましたが、開発方針を転換し、関連ソフトウェア資産31億9,900万円を減損。現行サービスは2026年6月28日に終了しました。

三十二億円近くが消えたの……。
減損は、その期に同額の現金が流出したという意味ではありません。過去に積み上げたソフトウェア資産の回収見込みを見直し、帳簿価額を落とした非資金費用です。ただし、投じた人員と開発費から十分な事業価値を回収できなかった事実は残ります。

次は、技術を何へ移して回収するかを見るべきだな。
会社は知見を既存事業へ統合するとしています。今後の焦点は、3D配信、制作支援、ゲーム、ファン体験へ技術が再利用され、追加売上や制作費削減として見えるかです。「技術は残った」だけでは、株主価値の説明には足りません。
今後の期待――海外とIP展開でどこまで成長できるか
国内の濃いファンだけに高額商品を売り続ける成長には限界があります。カバーが次に必要とするのは、海外の新規ファンと、在庫負担の小さいライセンス・デジタル収益です。

COVER USA、北米イベント、現地企業とのコラボ、海外向けグッズはそのための土台です。ただし、日本から商品を送るだけでは輸送費、関税、配送時間が重くなります。現地倉庫、現地生産、英語圏の営業、ライセンス網まで整って初めて、海外人気が安定収益になります。
会社は2030年3月期に売上高1,000億円、営業利益250億円以上を目標としています。2026年3月期の売上高493億3,000万円から、約4年でほぼ倍増が必要です。営業利益率も2026年3月期の約14.3%から25%以上へ引き上げなければなりません。

売上より、利益率の跳ね方が難しそうだな。

売上を倍にして、利益率まで大幅改善? 欲張りね。
達成には、タレント数を倍にするだけでは足りません。ホロカ、ゲーム、デジタル商品、海外ライセンスのように、一つのIPから何度も売上を生み、追加売上に対する費用を抑える必要があります。目標は会社計画であり、達成が保証された数字ではありません。
カバーの3年間を独自予想する
ここからの数値は会社予想ではなく、本記事の条件付き試算です。株式数は自己株式取得後も変動し得るため、EPSはおおよそのレンジとし、株価予想には使いません。
2027年3月期:売上520億円・営業利益75億円、2028年3月期:620億円・105億円、2029年3月期:760億円・150億円。ホロカ英語版、海外ライセンス、ゲームが伸び、在庫とECが正常化。2029年3月期EPSは概算150~170円。
2027年3月期:売上500億円・営業利益65億円、2028年3月期:550億円・75億円、2029年3月期:620億円・90億円。国内物販は安定するが、海外と新規IPの利益貢献は緩やか。2029年3月期EPSは概算90~105円。
2027年3月期:売上470億円・営業利益45億円、2028年3月期:460億円・35億円、2029年3月期:480億円・40億円。卒業・休止、配信指標低下、商品不振、固定費負担が重なる。2029年3月期EPSは概算40~50円。
強気と中立を分けるのは売上だけではありません。海外・ライセンス・デジタル商品の構成比が上がり、売上総利益率と営業利益率が改善するかです。弱気への入口は、人気タレントの活動減少と商品供給問題が同時に続くことです。
ここから先は、公開資料から考える大胆な未来
ここからは公開資料を材料にした独自の仮説です。会社が公表した計画や業績予想ではなく、実現を保証するものでもありません。
仮説1 ホロライブが「一人のスター」ではなく世界的IP群になる
つながる材料:日本、インドネシア、英語圏のタレント、音楽、ライブ、商品を既に持ちます。実現条件:新人育成と地域間回遊が続き、卒業の穴をグループで補えること。壊れる条件:大型タレントへの集中と相次ぐ休止・卒業。観測指標:新興タレントの視聴、海外売上、タレント別売上集中度です。
仮説2 無料配信を入口に、ライセンス利益を厚くする
つながる材料:北米・東アジアのライセンス案件は拡大しています。実現条件:現地営業とブランド審査を強化し、継続契約を増やすこと。壊れる条件:コラボ過多と品質事故。観測指標:ライセンス売上成長率、海外比率、利益率です。
仮説3 ホロカが継続収益の第二の柱になる
つながる材料:カード販売、店舗大会、英語版へ展開できます。実現条件:競技とコレクションの両方を保ち、商品供給を安定させること。壊れる条件:過剰供給、ルール疲労、人気カード偏重。観測指標:取扱店舗、大会参加者、新弾売上、在庫回転です。
仮説4 個人事務所との提携型モデルが広がる
つながる材料:Studio STELLARは、ソロ活動を移しながらグループ協業を残しました。実現条件:権利、費用、収益分配を透明にし、双方に利点があること。壊れる条件:協業範囲の縮小やファンの混乱。観測指標:共同商品、公演、所属継続、収益への影響です。
仮説5 27億円スタジオが外販可能な制作能力になる
つながる材料:カバーは200台以上のモーションキャプチャーカメラを備えた大規模スタジオを持ちます。実現条件:自社稼働率を高めたうえで、余力を外部案件へ販売できること。壊れる条件:設備陳腐化と人員不足。観測指標:稼働率、制作本数、外部売上、減価償却負担です。
仮説6 ホロアースの失敗を、3D・ゲーム技術として回収する
つながる材料:現行サービスは終了しましたが、会社は技術と知見を既存事業へ統合するとしています。実現条件:小さな機能単位で配信、ゲーム、ファン交流へ実装すること。壊れる条件:再び大型構想を先行させ、採算確認が遅れること。観測指標:新サービスの利用者、課金、開発費、既存制作費の削減です。
次の決算で見るべき六つの数字
- マーチャンダイジング売上:欠品解消で戻れば供給問題、戻らなければ需要面の警戒が強まります。
- ホロカの新弾・英語版:反復購入と海外定着が強気仮説の条件です。
- 配信/コンテンツ:配信指標の軟化が一時的かを確認します。
- ライセンス/海外売上:在庫を持たない成長が利益率改善へ届くかを見ます。
- 営業利益率:固定費先行が終わり、売上増が利益へ変わるかを測ります。
- 発行株式数と自己株式:会社の成長が一株当たり価値へ届いているかを確認します。

次は「人気があるか」より、人気を利益へ変えられたかだな。

そして私の財布が、欠品で止められないかも見る。
カバーの強みは、配信という低コストの入口から、ライブ、グッズ、カード、ライセンスへ人気を広げられることです。弱点は、その価値がタレント本人の継続活動に強く依存し、商品供給や大型投資を誤ると、人気が利益へ変わらないことです。
2030年目標へ届くかは、ファンへさらに多く買わせることだけでは決まりません。海外で新しいファンを増やし、ライセンスとデジタルの比率を上げ、ホロカを定着させ、失敗した投資から技術を回収できるか。次の決算では、その変化が売上構成と営業利益率に現れるかを見ていきましょう。
前編・参考資料
- 前編:VR卓球からホロライブへ――カバーはなぜVTuber市場を制したのか
創業から上場まで、現在の四事業が生まれた過程をたどります。 - カバー株式会社 IR情報
決算短信、決算説明資料、中期目標を確認できます。 - Studio STELLAR設立に関する公式発表
- ホロスターズ運営体制変更に関する公式発表
※本記事は公開資料を基に、企業の歴史と経営上の出来事を分かりやすく整理したものです。人物・組織への評価は、確認できる事実と分析を区別して記載しています。
※業績、株式数、事業状況などは2026年8月31日時点です。将来シナリオと3年間の数値は公開資料を材料にした独自の考察・条件付き試算であり、会社の計画や業績予想ではありません。本記事は特定の金融商品の売買を勧める投資助言ではありません。
※本記事は「東方Project」の二次創作です。キャラクター原作:上海アリス幻樂団/立ち絵素材:うさ義式(うさ義様)/本記事は対象企業および東方Project公式とは関係ありません。

コメント