
スマホ、安いのでいいかな。画面なんて映れば同じでしょ。

毎日見る部品なのに、ずいぶん雑な選び方だな。

じゃあ魔理沙、自分の画面を作った会社は知ってる?

……メーカー名は分かるが、部品会社までは知らないぜ。

ほら。結局、映れば同じなのよ。
実はその無関心が、巨大企業の運命を決めることもあるんですよ。消費者には名前を知られにくい一方、特定のスマートフォンが売れるかどうかで、数千億円規模の設備と雇用が揺れる会社です。
ジャパンディスプレイ、通称JDIです。日本を代表する電機メーカー三社の中小型液晶事業を集め、世界で戦うために誕生しました。

はいはい、今回はその企業の解説ってことね。

相変わらず無理な導入だぜ。
三社を合わせれば、世界で勝てるはずだった
2011年、産業革新機構、ソニー、東芝、日立製作所は、中小型ディスプレイ事業を統合することで基本合意しました。翌2012年、三社の事業を引き継いだJDIが本格的に発足します。
当時の発想には筋が通っていました。各社が別々に研究開発や工場投資を続ければ、韓国・台湾勢との規模競争で不利になります。技術、人材、顧客、生産設備を一社へ集めれば、重複費用を減らし、投資判断も速くできると期待されたのです。

強い三社を合体させたら、もっと強くなるじゃない。

技術だけでなく、三社分の事情も集まるけどな。
そこは大切な指摘です。ただし、発足時点から失敗が決まっていたわけではありません。統合前三社の2010年度売上高の単純合計は約5,016億円、中小型液晶の世界シェアは約20%と推計されました。JDIは最初から世界首位級の事業基盤を持っていたのです。
図解1 JDI誕生時に集められたもの
↓ 統合
スマートフォンの成長が、JDIを押し上げた
発足時はスマートフォン市場が急拡大していました。画面には、高精細、薄型、低消費電力、タッチ操作への対応が求められます。JDIが得意とした低温ポリシリコン液晶は、その要求と相性がよい技術でした。
部品メーカーの仕事は、完成品を店頭で売ることではありません。端末メーカーから設計認証を受け、求められた品質と数量を期限通りに納めます。一度採用されれば、大量受注につながります。

採用されれば、同じ機種向けに何百万枚も出るわけだな。

大口のお客さんをつかめば安泰ね。
霊夢の判断は半分正しいです。大量受注は工場の稼働率を上げ、製品一枚当たりの固定費を薄めます。しかし、大口顧客の注文が急減すれば、その効果は逆向きに働きます。
2014年、JDIは東京証券取引所へ上場しました。世界市場で戦う成長企業という期待が、資本市場からの資金調達を可能にしました。

上場までしたなら、最初の作戦は成功よね。

入口はな。上場後に何へ投資したかを見ようぜ。
一社からの大量注文は、強さか依存か
JDIの業績を支えたのが、Apple向けとみられるスマートフォン用液晶でした。取引先名を会社が常に明示するわけではありませんが、有価証券報告書の主要顧客比率から、特定顧客への集中を追うことができます。
大口顧客には、品質の証明、安定した数量、厳しい納期が必要です。それを満たせる企業は限られます。JDIにとって大型受注は技術力の証明であり、工場へ投資する合理的な理由でもありました。

ほら、やっぱり太い客がいれば安心じゃない。

その客が次の製品で別の画面を選んだら?
ここで成功の仕組みが罠へ変わります。顧客の販売計画に合わせて専用性の高い設備を用意すると、注文減少時に別用途へすぐ転用できません。さらに巨大顧客は購買力が強く、部品会社が価格や条件を自由に決めにくくなります。
白山工場――未来の注文を先に信じた投資
JDIは石川県白山市に新工場を建設し、2016年末に稼働させました。スマートフォン向け液晶の需要へ応える重要拠点です。顧客から前受金を得て建設を進めたことは、注文の確度を高める一方、将来の製品供給で返していく負担も意味しました。

前払いなら、借金より気楽そう。

商品で返す約束なら、注文減でも消えないしな。顧客も金を出すなら、注文はかなり堅そうだぜ。
そこまでは正しい見方です。問題は、端末の需要だけでなく、採用される表示方式まで変わったことでした。
2017年、上位スマートフォンでOLED採用が本格化します。液晶が直ちに消えたわけではありません。しかし、利益率の高い上位機種がOLEDへ移れば、液晶の数量と価格には強い圧力がかかります。

じゃあ工場もOLED用に変えればいいのでは?
言葉にすると簡単ですが、製造装置、材料、工程、歩留まり、特許、顧客認証が違います。既存の液晶工場を看板だけ掛け替えてOLED工場にはできません。新投資には資金と時間が必要で、その間も液晶設備の固定費は残ります。
図解2 成功の仕組みが逆回転した流れ
強調点:問題は「液晶技術が急に劣化した」ことではなく、需要と設備の前提がずれたことです。
画面が売れなくても、工場の請求書は来る
ディスプレイ工場は、停止すれば支出がゼロになる店ではありません。減価償却、保守、電力、人員、材料契約などが残ります。稼働率が落ちると、一枚当たりが背負う固定費が重くなり、値下げ競争への耐久力も下がります。

使わないなら、すぐ閉めればいいじゃない。

閉鎖費用もあるし、次に注文が戻る可能性も捨てるんだぜ。
その通りです。工場を残せば赤字が続くかもしれず、閉じれば減損や退職費用が出て、将来の生産能力も失います。「もう少し待てば需要が戻る」という期待が、決断を難しくします。
結局、白山工場は2019年に稼働を停止。2020年、土地・建物をシャープへ、生産設備を顧客へ売却することになりました。譲渡総額は約713億円。得た資金は顧客からの前受金返済などへ充てられました。

売却額だけ見て「もうかった」とは言えないな。

返済先が先に待っていたものね。新しい工場が、数年で返済の道具に……。
技術力の不足だけでは説明できません。顧客集中、大型設備、製品サイクル、表示方式の転換という複数の時間軸が、同時にずれた結果です。
支援は赤字を消す魔法ではない
JDIは資金繰りを支えるため、官民ファンドや金融機関、取引先との調整を重ねました。2019年には外部投資家による支援交渉が揺れ、2020年にはいちごトラストとの資本提携へ進みます。
資本注入は、支払いや事業継続の時間を買います。しかし顧客、製品、原価、工場稼働が変わらなければ、営業赤字は再び現金を減らします。救済のニュースと、本業の再生は別々に確かめる必要があります。

支援決定の見出しだけでは足りないのね。

次の決算で現金が残るかまでが一組だぜ。

入金は呼吸を戻す。でも体質までは治さないんだ。

合体しても、支援されても、それだけでは勝てないのね。
前編で見えたのは、JDIが「技術のない会社」だったという話ではありません。優れた技術を、大口顧客の製品周期と巨大設備へ結び付けた収益構造が、環境変化に耐えられなかったという話です。
一方、会社は消えませんでした。車載や産業用途、センサー技術を残し、工場と人員をさらに絞る再建へ進みます。そこで次の疑問が生まれます。
会社を小さくし、新株を発行し、新技術へ賭ける再建は、会社の存続だけでなく、現在株主の一株当たり価値へ届くのでしょうか。

もしかして安いスマホを選ぶ私も、原因だったりする?

値札だけ見る客に、部品の名前は届きにくいんだな。
参考資料
※本記事は公開資料を基に、企業の歴史と経営上の出来事を分かりやすく整理したものです。人物・組織への評価は、確認できる事実と分析を区別して記載しています。
※業績、株式数、保有資産などは記事記載の基準日時点です。本記事は特定の金融商品の売買を勧める投資助言ではありません。
※本記事は「東方Project」の二次創作です。キャラクター原作:上海アリス幻樂団/立ち絵素材:うさ義式(うさ義様)/本記事は対象企業および東方Project公式とは関係ありません。


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