人がいねえ!!――国際線旅客95%減をANAはどう生き残ったのか

企業・決算
霊夢
霊夢

海外旅行の予定って、楽しみにしている時間まで旅行の一部よね。

魔理沙
魔理沙

ところが2020年は、予定どころか国境を越えること自体が難しくなったな。

霊夢
霊夢

乗る人がいないなら、航空会社は飛行機を休ませればいいんじゃない?

そう考えたくなります。しかし飛行機は、止めた瞬間に費用まで止まる乗り物ではありません。

ANAホールディングスは2020年度、国際線旅客を前年度比95%失い、4,046億円の最終赤字を出しました。それでも会社は破綻せず、需要が戻るまで持ちこたえます。

いったい何がANAを支えたのでしょうか。貨物でしょうか。銀行融資でしょうか。それとも大規模なコスト削減でしょうか。

ANAは、なぜ国際線を成長の柱にしたのか

ANAの前身は、1952年に設立された日本ヘリコプター輸送です。戦後の国内航空を開拓し、やがて全日本空輸として全国へ路線を広げました。

長く収益の土台だったのは国内線です。ただ、日本の人口が減るなかで国内移動だけに頼れば、大きな成長は望みにくくなります。

一方、2010年代には訪日外国人が増え、羽田空港でも国際線の発着枠が広がりました。ANAは国際線へ大型機と人材を振り向け、海外需要を取り込んでいきます。

魔理沙
魔理沙

国内市場が伸びにくいなら、海外へ出るのは自然な判断だな。

さらに、低価格帯はLCCのPeach、急ぎの荷物は貨物事業が担います。フルサービスのANAだけに依存せず、異なる需要を一つのグループで取る設計でした。

2019年度の連結売上高は1兆9,742億円。国際線拡大は無謀な賭けではなく、コロナ前までは実際にANAの成長を支えていました。

霊夢
霊夢

じゃあコロナ前の判断まで「失敗だった」と決めつけるのは違うのね。

その通りです。ただし、旅客を大量に運ぶほど利益が出る仕組みは、需要が消えたときには逆向きに働きます。

飛ばなくても、飛行機はお金を使う

需要が落ちれば減便し、燃料費や空港使用料などを減らせます。ところが、航空機のリース料や減価償却費、保管・整備費は残ります。

予約システムや空港設備も維持しなければなりません。パイロット、整備士、運航管理者といった専門人材も、回復後にすぐ集め直せる人たちではありません。

航空会社の苦しさ
運航を止めれば変動費は減る。しかし、再開できる状態を守るための固定費は残る。すべてを手放せば、需要が戻ったときに飛べない。
霊夢
霊夢

休ませてもお金がかかる。手放したら再開できない。逃げ道が狭すぎない?

霊夢
霊夢

でも数カ月我慢すれば、すぐ元に戻ると思っていたんじゃないの?

魔理沙
魔理沙

戻る日が分からないから、必要な現金の量まで読めなかったんだ。

通常の不況なら需要が何割か落ちます。コロナ禍では、各国の入国制限と国内の移動自粛が重なり、人の移動そのものが途切れました。

国際線旅客95%減――売上は半分以下へ

2020年度、ANA国際線の旅客数は前年度比95.5%減、国内線も70.5%減となりました。連結売上高は7,286億円まで縮みます。

営業損失は4,647億円、親会社株主に帰属する当期純損失は4,046億円。どちらも巨額ですが、意味は同じではありません。

数字を混ぜない
  • 4,647億円:本業を中心とする営業段階の損失
  • 4,046億円:税金や特別損益などを反映した最終損失
  • 資金調達額:会社へ入った現金。利益ではなく、返済や株主への責任を伴う
魔理沙
魔理沙

赤字額が、そのまま銀行口座から消えた金額というわけではないぜ。

それでも現金は毎月出ていきます。ANAにとって怖かったのは赤字の大きさだけでなく、需要が戻る前に支払いができなくなることでした。

貨物便は、本当にANAを救ったのか

旅客便が消えると、意外なものまで不足しました。旅客機の床下には、スーツケースだけでなく国際貨物も積まれているからです。

世界中で旅客便が減った一方、医療用品、半導体、電子部品などを急いで運ぶ需要は残りました。空いた貨物スペースの価格は上昇します。

ANAは貨物専用機に加え、旅客機も貨物便として飛ばしました。2020年度の国際貨物収入は1,605億円となり、前年度を56.3%上回ります。

霊夢
霊夢

過去最高なら、貨物が全部助けてくれたってこと?

魔理沙
魔理沙

1,605億円は大きい。でも失った旅客収入と、4,647億円の営業赤字を見れば一発逆転ではないな。

貨物は救世主というより、残った需要を現金へ換えた貴重な支えでした。機材を動かし、国際運航の能力をつなぐ意味もあります。

しかし、貨物だけで長期戦を耐えることはできません。ANAは外から大規模な資金を集めます。

9,350億円の借入と2,976億円の増資

ANAは民間金融機関と日本政策投資銀行から、合計9,350億円規模の借入を実施しました。この中には、資本に近い性質を持つ劣後ローンも含まれます。

さらに2020年末から2021年初めにかけて、公募と第三者割当による増資で2,976億円を調達しました。

霊夢
霊夢

つまり国が4,000億円の赤字を穴埋めしたの?

魔理沙
魔理沙

待った。借金、株主から集めた資本、返済不要の補助は、全部別物だぜ。

魔理沙
魔理沙

金額だけ並べると、誰が何を負担したのか見えなくなるな。

借入は原則として返済が必要です。増資は返済期限こそありませんが、既存株主の持分を薄め、出資者へ将来の利益で応える責任が生まれます。

雇用調整助成金や航空機燃料税などの負担軽減もありましたが、「国が赤字を丸ごと贈与した」とまとめるのは正確ではありません。

これらの資金が買ったのは利益ではなく時間です。会社が倒れる前に、支出の構造を変える猶予を確保しました。

大型機を退役させ、毎月の流出を減らす

現金を厚くしても、巨額の支出が続けばいつか尽きます。ANAは2020年10月、事業構造改革を公表しました。

需要が戻りにくい国際線の大型機を中心に早期退役を進め、新規機材投資も抑制。路線と便数を需要に合わせ、ANAとPeachの役割も見直しました。

2020年度のコスト削減額は計5,900億円。ただし、ここには減便で発生しなかった燃油費なども含まれます。

魔理沙
魔理沙

5,900億円を稼いだのではなく、使わずに済んだ費用も合わせた数字なんだな。

一時的に飛ばなかったことで減る費用と、機材や組織を変えて翌年以降も減る固定費では、意味が違います。

ANAが必要としたのは両方でした。目の前の現金流出を止めながら、需要が完全には戻らなくても耐えられる会社へ変えなければなりません。

なぜ、大量解雇ではなく出向だったのか

人件費にも手を付けました。役員報酬、賃金、一時金を削減し、一時帰休や採用抑制を実施します。従業員をグループ外の企業や自治体へ出向させる取り組みも広がりました。

霊夢
霊夢

仕事がないなら、思い切って人を減らした方が早かったんじゃない?

短期の費用だけを見れば、そう映ります。しかし航空会社は、安全運航を担う人材を短期間で育てられません。

パイロットや整備士には資格と訓練が必要です。客室乗務員や地上スタッフも、需要が戻った翌日に同じ人数をそろえられるわけではありません。

魔理沙
魔理沙

人を守ることが、再開できる航空会社を守ることにもつながったわけだ。

出向は、雇用と技能をできるだけ残しながら、需要消失期の負担を抑える折衷策でした。従業員側に大きな生活上の変化を求めた点も忘れてはいけません。

非航空事業は、第二のエンジンになったのか

ANAはマイレージ会員との接点を生かし、旅行、EC、決済、地域サービスをつなぐ構想も進めました。飛行機に乗る瞬間だけでなく、日常から収益を得ようとしたのです。

霊夢
霊夢

それなら、もう飛行機に頼らない会社へ変われたの?

そこまで急には変われませんでした。航空事業の規模は大きく、新事業が数年で置き換えられるものではありません。

非航空事業は将来への種でしたが、危機脱出の主役ではありません。最後に必要だったのは、やはり人の移動が戻ることでした。

回復の予想は外れ、赤字は2年続いた

2021年度には黒字へ戻る計画もありました。しかし変異株の流行と行動制限が続き、営業損失1,731億円、最終損失1,436億円を計上します。

魔理沙
魔理沙

最初の資金だけで安心できなかった。長引くたびに、時間を買う意味が重くなったな。

それでも、貨物収入、資金調達、コスト削減、人材維持が重なり、ANAは時間切れを避けました。

2022年度、国内の行動制限や各国の入国制限が緩和されます。連結売上高は1兆7,074億円へ戻り、営業利益は1,200億円。3期ぶりの営業黒字となりました。

ここで黒字化を「コスト削減の成果」だけにすると、肝心な変化を見落とします。2022年度は運航規模を拡大したため、営業費用も前年度より3,940億円増えました。それ以上の速さで旅客収入が戻り、売上高が6,871億円増えたからこそ、利益が再び生まれたのです。

改革は需要を作り出したのではありません。需要が戻る日まで会社を残し、戻ってきた乗客を受け入れる力を守ったのです。

売上高と営業損益の推移
2019年度
1兆9,742億円
2020年度
7,286億円
2021年度
1兆203億円
2022年度
1兆7,074億円

営業損失:2020年度 4,647億円 → 2021年度 1,731億円
営業利益:2022年度 1,200億円

出典:ANAホールディングス各年度決算資料。棒の長さは売上高の相対比較。

霊夢
霊夢

改革だけで黒字にしたというより、改革して持ちこたえた先で、お客さんが戻ったのね。

霊夢
霊夢

じゃあ貨物も融資も削減も、どれか一つが答えではないんだ。

ANAが生き残れた本当の理由

収入を残す貨物便で残った需要を取る
支出を減らす減便・機材退役・固定費削減
現金を確保する借入・劣後ローン・増資
再開能力を守る人材・資格・ネットワークを維持

ANAが生き残れた理由は、四つの対策を同時に進めたことです。貨物で収入を残し、機材と運航規模を縮め、外部資金で現金を厚くし、人材を回復期までつなぎました。

どの施策にも限界があります。貨物だけでは旅客の穴を埋められず、借入は将来の返済を増やし、コスト削減を急ぎすぎれば再開能力を失います。

だからANAは、会社を小さくするだけではなく、「すぐには飛べなくても、いつか再び飛べる状態」を残す必要がありました。

魔理沙
魔理沙

危機を消したのではなく、危機より長く耐えた。そういう生存戦略だったんだな。

回復後も、すべてが元通りではない

旅客需要の回復後は、人手不足、航空機やエンジンの納入・整備遅延、燃油価格、為替変動が経営を揺らします。コロナ禍で膨らんだ有利子負債の圧縮も続きました。

削減した人と機材は、需要が急に戻ってもすぐには増やせません。需要が消えたときは固定費が重く、戻ったときには供給力が足りない。航空会社は反対方向の難題を抱えます。

一方、ANAグループの2026年3月期は売上高2兆5,392億円、営業利益2,174億円となりました。危機前を超える規模へ戻っても、あのとき増えた負債や変えた組織の影響まで消えたわけではありません。

魔理沙
魔理沙

生き残った後は、危機で背負ったものを返しながら次の成長を作る番だぜ。

魔理沙
魔理沙

飛行機が飛び始めても、経営の修理は空港の外で続いているんだな。

霊夢
霊夢

運休のニュースの裏で、会社そのものを着陸させない戦いが続いていたのね。

まとめ

ANAは一つの妙手で救われたのではありません。貨物は収入を残し、借入と増資は時間を買い、機材・費用の削減は現金流出を抑え、出向などの人員対策は再開能力を守りました。その四つが需要回復までつながったことで、ANAはコロナショックを越えられたのです。

参考資料

※本記事は公開資料を基に、企業の歴史と経営上の出来事を分かりやすく整理したものです。人物・組織への評価は、確認できる事実と分析を区別して記載しています。

※本記事は「東方Project」の二次創作です。キャラクター原作:上海アリス幻樂団/立ち絵素材:うさ義式(うさ義様)/本記事は対象企業および東方Project公式とは関係ありません。

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