
前編の最後、ずいぶん嫌なところで終わったわね。部品だけじゃなく、試験まで問題になるってどういうこと?

安全だと証明するための数字が怪しいなら、どこまで危ないか判断できなくなる。部品の故障より厄介かもしれないぜ。
霊夢の疑問は、その後のタカタを考えるうえで核心に近いものです。
前編では、異常破裂の範囲が広がり、交換費用の上限が見えなくなっていくところまでを見ました。
後編では、社内試験の扱い、米国での刑事処分、民事再生、そして会社が消えた後も続くリコールまでを追います。
試験データは、なぜ信用を失ったのか
エアバッグのインフレーターは、作動時の圧力や燃焼速度を細かく試験します。基準を外れた結果が出れば、原因を調べ、設計や製造工程を見直さなければなりません。
米司法省が2017年に公表した内容によると、タカタは少なくとも2000年ごろから、一部のインフレーターが自動車メーカーの要求を満たさない試験結果を示していることを把握していました。

2000年って、市場で異常破裂が確認される前じゃない。じゃあ最初から全部分かってたの?
そこは慎重に分ける必要があります。
試験で異常が出たことと、後に世界中で起きた経年劣化の全体像を最初から理解していたことは同じではありません。型式や製造条件が違えば、原因も異なる可能性があります。

試験失敗が一件出ただけで、将来の数千万個を全部予言できるわけじゃない。問題は、その失敗をどう扱ったかだな。

つまり、分からなかったことより、分からないまま正直に出したかが大事ってこと?
その通りです。
司法省によれば、タカタでは顧客へ提出する試験報告から不都合な結果を除いたり、数値を変更したりする行為が行われました。
自動車メーカーは、そのデータを見て部品を採用し、車へ組み込みます。数字が実態より良く見せられれば、危険を評価する出発点そのものが狂います。

製品が壊れたなら、原因を探して直せる。でも地図を描く測量値まで変えられたら、どこを直すべきか分からないぜ。

事故が起きてから昔の試験を見直しても、その記録が信用できない。そりゃ調査も遅れるわ。
米司法省は、不正行為が約15年続き、経営幹部の層まで及んだと説明しています。タカタは通信詐欺罪を認めました。
技術上の失敗は、原因を突き止めれば修正できます。しかし、悪い情報を隠す組織では、修正を始める時期そのものが遅れます。
タカタだけでは交換を進められない
問題が広がると、ホンダ、トヨタ、日産、BMW、フォードなど、多くの自動車メーカーが対象車を特定し、所有者へ連絡する必要に迫られました。
ここで実際にリコールを実施するのは、自動車メーカーです。タカタは交換部品を供給しますが、所有者への通知や販売店での修理は各メーカーが担います。

部品を作ったタカタが、全部の車を直接回収するわけじゃないのね。

タカタは車の持ち主を知らないからな。誰の車に入ったかを追えるのは、自動車メーカー側だ。
ええ。しかも対象は世界各地に散らばっています。
NHTSAは、古い車や高温多湿地域で長く使われた車を優先し、段階的に交換部品を供給する計画を組みました。
すべての部品を同時に用意できなかったため、一時的に同型の新品へ交換し、後から恒久対策品へ再交換する車もありました。

完璧な部品を全員へ待たせるより、危険な古い部品を先に新しくする。苦しいけど、現実的な順番だったんだ。

一回直したのに、また来てくださいって言われる人もいたのね。リコールが大きすぎる。
2015年、世界最大級のリコールへ
2015年、NHTSAはタカタに対する監督を強め、メーカー横断で交換を進める「協調的救済命令」を出しました。
翌2016年には、乾燥剤を含まないPSANインフレーターを段階的に全米で回収する方針が示されます。
米国では約6,700万個のタカタ製エアバッグがリコール対象となり、19の自動車メーカーが関係しました。

6,700万個……。数字が大きすぎて、まだ実感が湧かないわ。

日本の人口の半分より多い数だ。しかも一個ずつ車を探して交換する。会社の品質保証部だけで回る規模じゃないぜ。
2026年7月時点で、NHTSAは米国内の死亡者28人、負傷者少なくとも400人を確認または報告しています。
日本でも、国土交通省が未改修車への対策を強化しました。2018年5月からは、危険性の高い未改修車を車検で通さない措置を始めています。

車検を通さないところまでやったの? 通知だけじゃ直してくれなかったってこと?
通知が届かない中古車もあれば、届いても危険性を実感しにくい所有者もいます。
そこで行政は、車検という必ず通る手続きへ改修を結び付けました。安全対策としては強い手段ですが、それだけ未改修車が多かったということでもあります。
リコール拡大から経営破綻まで
タカタを取り巻く出来事の主な流れ
米国で初期リコール。対象は特定車種・製造期間に限られていた。
複数メーカーへ対象が拡大。高温多湿地域を中心に危険性が注目される。
NHTSAがメーカー横断の交換を主導。タカタへの制裁金も科される。
乾燥剤なしPSAN製品を段階的に全米で回収する方針へ。
米国で通信詐欺罪を認め、総額10億ドルの刑事制裁。
東京地裁へ民事再生法の適用を申請。米国子会社も再建手続きへ。
主要事業をKSSへ譲渡し、Joyson Safety Systemsへ再編。
旧タカタ製品の交換は、自動車メーカーと行政の下で継続している。
出典:NHTSA、米司法省、国土交通省、帝国データバンクなどを基に作成。国や資料により、対象車両数とインフレーター個数の集計単位が異なります。

事故、調査、交換、行政処分、刑事事件が同時に進んでいる。会社の中は相当な混乱だっただろうな。
10億ドルの刑事制裁
2017年2月、タカタは米国の連邦裁判所で通信詐欺罪を認め、総額10億ドルの刑事制裁を科されました。
内訳は2,500万ドルの罰金と、9億7,500万ドルの補償です。
補償のうち1億2,500万ドルは、まだ和解していない負傷者などのための基金へ。8億5,000万ドルは、リコール費用を負担した自動車メーカー向けの基金へ充てられました。

10億ドル全部が罰金じゃないのね。自動車メーカーも補償を受ける側なの?

司法省は、偽った試験情報を信じて部品を買った被害者として整理したんだ。交換費用も先に払っているからな。
ただし、各自動車メーカーがいつ何を知り、どう判断したかは同じではありません。
タカタの有罪認定と、自動車メーカー各社の対応評価は分けて考える必要があります。事件が巨大だからといって、関係者全員を同じ役割で描くことはできません。

企業事件は役割を分けないと雑になる。認定された事実から順に見るしかないぜ。
売れているのに、会社の未来が計算できない
タカタはリコール問題が深刻化した後も、世界中の工場で部品を作っていました。2017年3月期の連結売上高は約6,625億円です。
それでも会社が耐えられなかったのは、将来いくら必要になるのか計算できなかったからです。

普通の借金なら、返す金額は決まってる。でもリコールは対象が増えるたび請求も増えるのね。

まだ届いていない請求書が世界中にあるようなものだ。負担の天井が見えない会社へ、銀行も簡単には貸せない。
その通りです。
自動車メーカーは交換費用を先に負担し、その後タカタへ請求します。対象が広がれば、将来の請求額も増えます。
さらに複数の自動車メーカーが、タカタ製インフレーターの新規採用を見直しました。過去の責任で現金が減る一方、将来の売上まで細くなっていきます。
申立て時点で公表された負債は約1,826億円でした。しかし、後に確定した再生債権などの総額は約1兆823億円へ膨らみました。
負債額の注意:申立て時点の帳簿上の負債、将来の求償請求を含む推計、再生手続きで確定した債権額では数字が異なります。そのため「タカタの負債」を一つの金額だけで表すと、時点や範囲を誤解しやすくなります。
2017年、タカタが民事再生を申請
2017年6月26日、タカタは東京地方裁判所へ民事再生法の適用を申請しました。製造業として戦後最大級の倒産です。
ここで工場を止めて会社を清算すると、別の問題が起きます。

倒産したなら、もう作るのをやめるんじゃないの?

交換部品が必要なのに、作る会社まで止めたらリコールが進まない。それに新車向けの部品供給も止まるぜ。

潰れた会社を動かし続けないと、安全問題まで悪化するのか。面倒すぎるわ。
ええ。タカタは自動車産業の供給網へ深く組み込まれていました。
そのため民事再生では、事業を動かしながらスポンサーへ引き継ぎ、リコール責任を別に処理する必要がありました。
スポンサーとなったのが、米国の自動車安全部品メーカー、キー・セイフティー・システムズ(KSS)です。
KSSは、問題となったPSAN関連の一部資産を除き、タカタの主要事業を15億8,800万ドルで取得する契約を結びました。

大まかにはそうだ。使える事業と雇用を残しつつ、過去の責任を処理する器を分けたんだな。
タカタは消えたが、事業は消えなかった
2018年4月、主要事業の譲渡が完了しました。KSSと旧タカタの事業は統合され、Joyson Safety Systemsとして再編されます。
シートベルト、ステアリング、エアバッグなど、問題のない事業や従業員まで消滅させないための処理でした。
一方、旧タカタ株式会社は2018年6月にTKJP株式会社へ商号を変更し、再生手続きや残された責任の処理を続けました。

『タカタは倒産した』は正しいけど、工場も技術も全部なくなったわけじゃないのね。

会社名、事業、責任を別々に見る必要がある。倒産後の企業は、一枚の看板だけでは説明できないぜ。
タカタ破綻の五つの層
一つの原因ではなく、問題が重なった構造
経年変化へ敏感なPSANを乾燥剤なしで使った製品が大量に存在
製造ばらつきや湿気管理が、原因の切り分けを複雑にする
試験結果の操作により、顧客が危険を判断する情報を損なう
悪い情報を早期の意思決定と顧客対応へ結び付けられない
リコール、補償、訴訟、新規受注減少で負担の上限が見えなくなる
公開資料を基にした筆者の整理です。各要因は独立して起きたのではなく、相互に影響しました。

材料だけ直せば終わりでも、社長だけ替えれば終わりでもなかったのね。

修正するはずの仕組みが何層も働かなかった。その間に対象だけが増えたんだ。
会社が消えた後も、交換は続く
タカタ製エアバッグは、会社を再編すれば道路上から消えるわけではありません。
NHTSAは現在も、一部の古い車種へ「運転しないでください」という警告を出しています。米国では約6,700万個が対象で、交換と所有者への連絡が続いています。
日本では、国土交通省が2026年3月末時点の改修率を約99.7%と公表しています。

99.7%なら、もうほぼ終わりじゃない?

対象が約2,000万台規模なら、0.3%でも単純計算で何万台か残り得る。安全問題では小さくないぜ。
中古車の売買、住所変更、廃車、海外輸出などにより、未改修車の追跡は年々難しくなります。
タカタ問題は、2017年の倒産で終わった事件ではありません。製品寿命が長い業界では、会社よりも製品責任の方が長く残ることがあります。
まとめ――安全を作るのは、部品だけではない
タカタは、異常破裂するエアバッグの拡大に加え、試験データの不正によって製品と組織の両方で信用を失いました。
世界規模の供給網は、成功時には成長を支えました。しかし問題発生後は、交換費用と責任を世界規模へ広げ、会社が負担の上限を計算できない状態を生みました。

危険な部品を作ったから潰れた、だけじゃないのね。危険を早く見つけて止める仕組みまで壊れていた。

安全装置は金属や火薬だけで作るものじゃない。悪い結果を正しく上げる組織まで含めて、安全なんだ。

会社がなくなっても交換は続く。安全の責任って、ずいぶん長く残るのね。
参考資料
- 米司法省「Takata Corporation Pleads Guilty, Sentenced to Pay $1 Billion」
- NHTSA「Takata Air Bag Recall Spotlight」
- NHTSA「Takata Recall Expansion」
- 国土交通省「タカタ製エアバッグに関するお知らせ」
- 国土交通省「リコール未改修車両を車検で通さない措置」
- 帝国データバンク「タカタ株式会社」
- 帝国データバンク「倒産集計 2018年」
- TKJP株式会社(旧タカタ株式会社)
※本記事は公開資料を基に、タカタの経営破綻とエアバッグ問題を分かりやすく整理したものです。負債額、対象台数、死傷者数などは資料の時点・国・集計単位によって異なるため、本文では基準を区別しています。人物・組織への評価は、確認できる事実と分析を区別して記載しています。
※本記事は「東方Project」の二次創作です。キャラクター原作:上海アリス幻樂団/立ち絵素材:うさ義式(うさ義様)/本記事は対象企業および東方Project公式とは関係ありません。


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