
ホロライブの次は、にじさんじ?

同じVTuber企業でも、かなり違うぜ。

絵の姿で配信するのは同じでしょ?

人数も、男女構成も、育て方も違うな。

人数が多いほど管理費も増えない?

ところが会社の利益率は高いんだ。

安上がりに集めているとか?

早くも雑な結論だな。
今回取り上げるのは、VTuber・バーチャルライバーグループ「にじさんじ」を運営するANYCOLOR株式会社です。2017年に生まれ、2022年に上場した、カバーと並ぶ日本の代表的なVTuber企業です。
にじさんじは、一人の完成されたアイドルを中心に広がったグループではありません。雑談、ゲーム、歌、企画に強い人たちが次々に加わり、ライバー同士の関係そのものを見せることで、大人数であることを強みに変えました。
前編では、若いスタートアップが配信用アプリを作り、なぜアプリより配信者が注目され、多数のライバーが共存するブランドへ成長したのかを追います。後編では、その人気がどこで売上と利益に変わるのか、カバーと数字で比較します。

21歳の学生が「いちから」を設立した
ANYCOLORの前身「いちから株式会社」は、2017年5月2日に設立されました。創業者の田角陸氏は当時21歳。早稲田大学に在学しながら、東京都新宿区で会社を始めています。
会社の出発点は、現在のような大規模芸能事務所ではありません。スマートフォンを使い、顔の動きをキャラクターへ反映しながら配信できるアプリを作ろうとしていました。

カバーはVR卓球、こっちはアプリなのね。

同じ業界でも入口が違うわけだ。
当時のVTuberは、3Dモデルを動かして編集動画を投稿する形が主流でした。魅力的でも、機材、モデル、撮影、編集には手間がかかります。生放送を頻繁に続けるには重い仕組みでした。
いちからが狙ったのは、その制作負担を軽くすることです。スマートフォンと2Dキャラクターを組み合わせれば、配信者は自宅から話せます。視聴者のコメントにも、その場で反応できます。

ここで重要なのは「豪華な映像を安く作った」ことだけではありません。動画の完成度を競う市場から、毎日の会話と関係を積み重ねる市場へ、勝負の場所をずらしたことです。
アプリより、配信する8人が人気になった
2018年2月、いちからは「にじさんじ」の公式バーチャルライバー8人を始動させます。月ノ美兎、樋口楓、静凛、勇気ちひろ、える、鈴谷アキ、渋谷ハジメ、モイラです。


最初から一人じゃなく、8人なの?

組み合わせを最初から作れたんだな。
公式発表では、当時の「にじさんじ」はiPhone Xを利用するバーチャルライブアプリとして説明されていました。ところが、視聴者が強く惹かれたのはアプリの機能だけではありませんでした。
委員長という設定から予想できない話をする月ノ美兎、音楽活動へ広がる樋口楓、自然な雑談やゲーム配信。設定された外見と、配信中に見える本人の言葉、趣味、失敗が混ざり、簡単には台本化できない人物像が生まれました。

キャラクター設定が崩れたの?
崩れたというより、設定だけでは説明できない魅力が加わったのです。視聴者は次の作品を待つのではなく、次の配信で何を話すのかを待ちました。
会社にとっても大きな転換です。アプリは一度ダウンロードされても、利用が続くとは限りません。しかしライバーの活動には、配信、切り抜き、コラボ、記念日という新しい接点が生まれ続けます。
大人数を「薄める」のではなく、組み合わせへ変えた
いちからは同年、2期生、にじさんじゲーマーズ、にじさんじSEEDsへ所属者を急速に増やしました。2018年12月には、三つのグループ、合計58人を一つの「にじさんじ」へ統合します。

一年足らずで58人。さすがに多いな。

覚える前に次が来そう。
人数が増えれば、一人当たりの注目が薄くなる危険があります。それでもにじさんじでは、人数そのものがコンテンツになりました。ゲーム大会、先輩と後輩、同期、即席のコラボなど、一人では作れない関係が増えるからです。
図解1 大人数を成長へ変える循環
注記:公開情報を基にした記事独自の整理です。すべての視聴者が同じ経路をたどるわけではありません。
カバーのホロライブもグループ内の相互送客を持ちます。ただし、にじさんじは早い段階から男女を含む多数の配信者を加え、個人の違いと関係性を前面に出しました。全員を同じ型のアイドルへ揃えなかったことが、企画の幅を広げます。

大人数なら、誰かは好みに当たるわね。

その代わり、全員を同じだけ推せないぜ。
そこが大人数モデルの弱点です。デビュー後の支援、案件、グッズ、イベントの機会は均等ではありません。人気や企画との相性によって差が生まれます。選択肢の多さは強みですが、所属する全員へ同じ成果を約束する仕組みではありません。
男性ライバーとユニットが、別の市場を開いた
にじさんじの特徴は、男性ライバーが大きな人気を得たことです。葛葉は2021年、男性VTuberとして初めてYouTubeチャンネル登録者数100万人を突破しました。叶とのユニット「ChroNoiR」は、配信だけでなく音楽、グッズ、ライブへ活動を広げています。
月ノ美兎のような個人性の強い配信者、葛葉や叶のゲーム配信、ROF-MAOの番組・音楽活動。違う入口が一つのブランド内に並ぶことで、視聴者層も広がりました。

一つのグループというより商店街みたい。

その例えは、かなり近いな。
共通の看板はありますが、店ごとに商品も店主も違う。別の店との共同企画が話題になれば、通り全体へ人が流れます。運営会社は一人ひとりを同じ商品へ変えるのではなく、違う個性が出会う場所を管理します。

配信の人気を、商品とイベントへ広げる
配信者が増えるだけでは、会社の利益は自動的に増えません。YouTube広告、投げ銭、メンバーシップは重要ですが、プラットフォームとの分配があり、一人が配信できる時間にも限界があります。
いちからは、ボイス、アクリルスタンド、衣料品、音楽、イベント、企業タイアップへ収益源を広げました。配信で生まれた言葉や関係性が、誕生日商品、ユニット企画、ライブの購入理由になります。

無料配信が、商品の広告にもなるんだな。

推しの記念日なら財布が緩みそう。
霊夢の財布の話は後編で詳しく見ます。ただし、この構造には意味があります。配信の人気を、在庫を持つグッズ、在庫のないデジタルボイス、会場費のかかるイベント、他社が費用を負担するタイアップへ分けられるからです。

海外展開も進めました。複数地域のグループを展開した後、現在は英語圏のNIJISANJI ENを中心にしています。国内の大人数モデルが、そのまま海外でも再現できたわけではありません。この難しさも後編の成長リスクとして検証します。
人数が増えるほど、舞台裏の会社も必要になる
配信画面では一人のライバーが話していても、その背後にはマネージャー、映像・音楽制作、商品企画、営業、法務、権利確認、誹謗中傷対策などがあります。所属者と企画が増えるほど、会社側の確認事項も増えます。
ゲーム配信なら、タイトルや配信方法によって権利条件が違います。企業案件では、ライバー本人の個性を残しながら、広告主が伝えたい内容も守らなければなりません。ライブでは、会場、配信設備、出演者の予定を同時に組みます。

自由に話す仕事ほど、裏は堅いのね。

事故の後始末だけでは遅いからな。
ただし、管理を強めすぎれば、配信者の予想外の言葉や自由な企画という魅力を損ねます。ANYCOLORの役割は、全員へ同じ台本を渡すことではありません。活動を止めかねない危険を減らしつつ、個人の違いを残すことです。
この均衡は、大人数モデルの見えにくい競争力であり、同時に弱点でもあります。所属者が増えても支援人員が追いつかなければ、不満や活動停滞につながります。人数ではなく、一人当たりの支援をどこまで維持できるかも、上場後の会社を見る重要な指標です。
「いちから」からANYCOLORへ
2021年5月、いちから株式会社はANYCOLOR株式会社へ社名を変更しました。会社は新社名に、多様な個人の創造性を尊重しながら、新しい体験を作る意味を込めています。

会社名まで多様性を押し出したのね。

事業がアプリ一つではなくなった証拠だな。
にじさんじは、アプリ名から所属者を束ねるグループ名へ変わり、会社は配信技術の開発者からIP、商品、イベントを扱う企業へ変わりました。社名変更は、その現在地を会社名にも反映した出来事です。
図解2 創業から上場までの転換点
東証上場――大人数は利益になるのか
ANYCOLORは2022年6月8日、東京証券取引所グロース市場へ上場しました。その後、2023年6月にプライム市場へ移行しています。設立から上場まで約5年という速さでした。
上場時点のANYCOLORは、単なる配信者の所属事務所ではありません。四つの顔を持つ企業になっていました。


人数も商品も多いなら、売上は伸びそう。

だが、売上と利益は別物だぜ。
大人数なら配信と商品企画の入口は増えます。一方で、マネージャー、制作スタッフ、権利管理も必要です。イベントを増やせば制作費がかかり、グッズを作りすぎれば在庫が残ります。
それでもANYCOLORは、2026年4月期に556億円を超える売上高と200億円を超える営業利益を計上しました。営業利益率は約36%です。カバーより所属者が多い会社が、なぜこれほど高い利益率を出せるのでしょうか。
ANYCOLORの売上を「ライブストリーミング」「コマース」「イベント」「プロモーション」に分けます。カバーの四事業と対応させ、商品構成、設備、人件費、海外展開、在庫評価損、配当と自社株買いまで比較します。
前編まとめ――人数ではなく、関係の数を増やした
いちからは、スマートフォンでバーチャル配信を始めやすくする会社として出発しました。しかし、視聴者が注目したのはアプリ単体ではなく、そのアプリを使って話すライバーの個性でした。
会社は所属者を急速に増やし、同期、先輩後輩、ゲーム大会、ユニットという関係をコンテンツへ変えました。大人数を同じ型へ揃えるのではなく、違いと組み合わせを増やしたことが、にじさんじの成長を支えました。
ただし、大人数は管理、機会配分、海外展開の難しさも増やします。ANYCOLORの高収益が人数の多さだけで説明できない以上、次に見るべきなのは、ファンが何に払い、会社が何に費用を使っているかです。

商店街なら、売れる店に偏りそうね。

その偏りまで決算で見てみようぜ。

私の財布の偏りも見られるの?

それは自分で家計簿を付けろ。
VR卓球からホロライブへ――カバーはなぜVTuber市場を制したのか【前編】
両社の出発点と、グループの作り方の違いを比較できます。
ホロライブの人気は利益になるのか――カバーの稼ぎ方と一株価値【後編】
ANYCOLOR後編に先立ち、カバーの四事業、最新決算、投資負担を確認できます。
参考資料
- ANYCOLOR株式会社「当社について」
- いちから「にじさんじ公式バーチャルYouTuber8人始動」
- いちから「にじさんじが1つのグループに」
- ANYCOLOR「葛葉 YouTubeチャンネル登録者数100万人突破」
- いちから株式会社は「ANYCOLOR株式会社」へ社名を変更
- ANYCOLOR「IR よくあるご質問」
- ANYCOLOR「決算説明資料」
※会社の事業・開示状況は2026年8月31日時点で確認しています。本記事は公開資料を基に企業史を整理したもので、特定の金融商品の売買を勧める投資助言ではありません。
※本記事は「東方Project」の二次創作です。キャラクター原作:上海アリス幻樂団/立ち絵素材:うさ義式(うさ義様)/本記事はANYCOLOR株式会社、にじさんじおよび東方Project公式とは関係ありません。

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